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英語教育

日本の子どもたちのスピーキング力が弱い理由

執筆者 :応用言語学者 学習院女子大学教授 萓 忠義

目次

 

1. はじめに

グローバル化が進む現代において、世界共通語としての英語の重要性は今まで以上に増しています。特にスピーキング能力は、世界の人々と意思疎通を図る上でも、国際的な場で活躍する上でも不可欠なスキルです。しかしながら、現在、日本に住む子どもたちの英語スピーキング能力は、他のスキルに比べて著しく劣っていると言わざるを得ません。本稿では、子どもたちのスピーキング能力が低い原因を探り、どう改善すべきなのかを考えていきます。小学生のお子さんを持つ保護者の皆様にとって、子どもたちが自信を持って英語で話せるようになるためのヒントを提供できればと思っています。

 

 

2. 日本の子どもたちの低い英語スピーキング能力

子どもたちの英語スピーキング能力が低いということは、多くの教育関係者や保護者にとって深刻な問題となっています。この問題は、公的な調査やテストの結果からも浮き彫りにされており、例えば、2017年に文部科学省により実施された「平成29年度英語力調査結果(高校3年生)」では、高校生の英語スピーキング能力が読解力やリスニング力に比べて著しく劣っていることが示されています。特に、無得点者の割合が18.8% もいることが報告されており、「話すこと」に関して約5人に1人が何も得点することができなかったということになります。この調査では、全国の高校3年生約6万人が英語スピーキングテストに挑戦しましたが、多くの子どもたちが基本的なコミュニケーションをとることすら困難であったという結果に終わっています。

 

さらに、2023年に文部科学省により実施された「全国学力・学習状況調査」の結果からも、中学3年生の英語スピーキング能力が極めて低い水準にあることが示されています。スピーキングテストでの正答率はわずか12.4%で、受験した生徒の63.1%が無得点という結果になっています。これは明らかに、中学校段階での英語教育がスピーキングスキルの向上に寄与していないことを意味しており、子どもたちが日常会話や基本的な自己表現さえも英語で行うことが難しい状況が示されていると言ってもよいでしょう。

 

これら2つのデータは、日本の子どもたちの英語スピーキング能力の低さを示しており、教育システム全体の課題として、私たちはこの問題を捉える必要があるのです。また、国際社会で不可欠な英語スピーキング能力の向上を図るためには、学校教育だけでは不十分だと考えられ、社会全体で英語教育改善を行うことが急務であるとも言えるでしょう。

 

 

3. 教育現場の問題(第1の原因)

なぜ、日本人の子どもたちは英語のスピーキングが不得意なのでしょうか。子どもたちのスピーキング能力の発達を妨げる要因としては、日本の英語教育が読み書き中心に行われ、実際の会話練習やリスニングが不足していることが挙げられます。「学習指導要領」(日本の学校教育の目標や基準を定める公的文書)には、30年以上前から英語におけるコミュニケーションの重要性が謳われているものの、未だに文法訳読法を中心とした知識吸収型の英語教育が広く行われているのです。実践的な英語、使える英語を中心とした指導が学校教育で十分に行われていないことが、この問題の大きな原因になっているのです。

2022年に文部科学省が行った「令和4年度英語教育実施状況調査」結果によると、小学校では言語活動の65.9%がスピーキング活動に充てられていますが、その割合が中学校では49.9%、高等学校では48.2%となり、学年を経るごとにスピーキング活動の時間が減っていることがデータとして示されています。また、英語担当教師が、授業内で発話の半分以上を英語で行っている割合は中学校で74.4%ですが、高等学校になるとその割合はかなり減り、46.1%になってしまっています。明らかに、学年が上がるにつれて、教室内で英語を実際に使用する割合が減っていることが分かります。このような環境では、生徒たちは英語を実際に話す機会が極めて少なくなり、結果として、英語を使用することへの自信や興味を育むことが難しくなってしまうのです。

さらに、教育現場における教員自身の英語スピーキング能力に問題があることも、大きな課題として指摘されています。全国の現役小学校教員を対象に、2021年にイーオンが行った「小学校の英語教育に関する教員意識調査2021夏」(サンプル数132名)では、英語の授業運営に不安がありうまく授業ができていない教員が約56.8%おり、そのうち78.7%の教員が、スピーキング(やりとり)を教えるのが難しいと感じていることが報告されています。スピーキングにおいて、教師がモデルとなって英語を積極的に使う姿を子どもたちに見せることは、英語に対する興味や意欲を引き出すのに大変重要です。しかしながら、このような理想的な教室内環境はまだ整っておらず、実際に教室内で英語に慣れる機会は少ないと言えるのです。

これらの教育現場における問題は、日本の子どもたちがスピーキング能力を発達させる上で大きな障壁となっているのです。英語の読み書きに焦点を当てる現状を改善し、実際に英語を「使う」ための授業を増やすことが、スピーキング能力向上のためには不可欠なのです。子どもたちが自然に英語を話す機会をたくさん持てるように、教育環境の再構築が求められます。

 

 

4. 日本の文化的影響(第2の原因)

2つ目の原因として、日本人の国民性や文化的背景も、子どもたちの英語スピーキング能力に大きく影響していると言われています。特に、失敗を恐れる日本の文化的特性は、英語を話す上での障壁となっています。日本の教育では間違いを犯すことに対して否定的な見方が強く、子どもたちは失敗を恐れるあまりに、ものごとに挑戦することに躊躇してしまう傾向があるのです。例えば、英語のクラスにおいて、発音や文法の間違いをしてしまうことを恐れて、積極的に英語で発言しようとしない子どもたちが多いこともその一例と言えるでしょう。

また、自己主張を控える日本人的傾向も、子どもたちが英語を話す上での大きな問題となります。日本社会では謙虚さが美徳とされ、自己主張を抑える傾向があります。また、注目を浴びることや周囲と異なる行動をすることに対して抵抗感を持つ人が多いのです。これらの特徴は子どもたちの教室でも顕著に表れ、自分の意見を英語で発表する際の障害となるのです。もちろん、これらの日本文化的特性には良い点もあるのですが、グローバル社会の中でさまざまな方々と異文化交流を行うとなると、自分の考えや主張を明確に相手に伝えることが必要となるのです。

これらの日本人特有の要因を理解して改善することは、英語教育だけでなく、子どもたちが自信を育む上でも重要になります。英語を話すことを通じて単に言語能力を伸ばすだけではなく、失敗を恐れないチャレンジ精神や自己表現を行う勇気を育むことが可能になるのです。英語スピーキング能力を向上させ、文化的障壁を乗り越え、将来、世界に貢献できるグローバル人材を目指すことが現代を生きる子どもたちには求められています。

 

 

5. 英語を話す実践的な機会の不足(第3の原因)

子どもたちのスピーキング能力に関して悪影響をもたらす3つ目の原因として、英語のスピーキングを実践する機会の少なさが挙げられます。子どもたちは、学校教育を通じて教室内で英語に触れていますが、日本の日常生活の中で、学校で習った英語を実際に使う機会はほとんどありません。このような日本の環境を、専門的には EFL (English as a Foreign Language) 環境と言いますが、習った英語を実際に使う機会が限られているので、EFL は言語習得には最適な環境とは言い難いのです。これに対して、留学などで英語を生活の中で使う場合は、習った事柄を実際の環境の中ですぐに実践できるので、理想的な環境と言うことができます。この環境は ESL (English as a Second Language) 環境と言います。しかしながら、日本のような EFL 環境で英語を学ぶ場合にはさまざまな工夫が必要となり、自然な言語習得は容易ではありません。特に、実践練習が必要なスピーキング能力の向上が妨げられてしまうことも多くあるのです。

また、実際に英語を練習する機会が少ないと言うほかにも問題は存在します。大都市を除く日本の多くの地域では、英語を使って人々と自然に交流する機会が少ないため、英語を話す必要性を感じることが少なくなってしまいます。また、学校や塾で行われる英語の授業や試験対策などでも、文法に焦点を当て読み書き中心であることが多く、実際に英語を話すという練習はおろそかになりがちです。結果として、子どもたちは英語を話すことに対して消極的になってしまい、スピーキングに対する興味も持たなくなってしまうのです。

スピーキング能力の向上には、英語を話す練習の機会を多く持つことが必須となります。しかし、実際に英語を使ってコミュニケーションを取る練習経験が少ないと、自分のスキルに自信を持つことができず、そのことが話す機会をさらに避ける原因となってしまいます。子どもたちが英語を積極的に話せるようになるためには、日常生活の中で自然に英語を使用する環境を増やすことが重要であり、学校の教育現場以外の英会話スクールや家庭などにおいても、英語を使う取り組みを積極的に行う必要があるのです。

 

 

6. まとめ(スピーキング能力向上のための提案)

ここまで解説してきたように、日本の子どもたちにおける英語スピーキング能力の問題は単純に解決できない複合的な課題と言えます。ここでは、最後のまとめとして、上記で説明した三つの障害(1. 教育現場の問題、2. 日本の文化的影響、3. 英語を話す実践機会の不足)を克服するためには、どのような対応をすべきかを検討し、具体策をご提案したいと思います。

まず、教育システムにおける根本的な改革が必須と言えます。現行の英語教育では、未だに読み書きが中心で、スピーキングとリスニングの練習が疎かにされがちです。このアンバランス状態を解消するためには、授業での会話練習の割合を増やし、英語を使う機会を今まで以上に多く子どもたちに提供することが重要となります。具体的には、英語の授業での「英語オンリーポリシー (English Only Policy)」の導入や、英語の使用を促進するプロジェクトベースの学習などが効果的です。また、英語教員の役割は極めて重要であり、教師自身の英語スピーキングスキルを向上させるためにも、研修や支援体制を強化することなどが有効です。しかしながら、個人レベルでの対応を考えると、親御さんとしては、このような教育がすでに行われている教育機関(英会話スクールなど)にお子さんを置くことが必要となるでしょう。

次に、日本人の文化的特徴が、英語スピーキング指導の障害となっていることを念頭に、失敗を恐れずにチャレンジする精神を育む雰囲気を、学校や家庭で作り出すことも重要です。教室では、間違いを恐れずに話す練習を繰り返し行い、正しい発音や文法よりも、自分の意思を相手に伝えることが重要であることを強調し、成功体験を通じて「英語が話せるという自信」を子どもたちに持たせることが必要になります。また、学校だけでなく、英会話スクールに通ったり、家庭で英語を使う機会を増やしたりして、少しでも英語に触れる環境を日常的に用意してあげることも大切なのです。

最後に、スピーキング能力を向上させるためには、実践的なスピーキング練習の回数を増やすことも不可欠です。英語の使用機会を増やすために、国内外の英語交流プログラムやオンラインでの国際交流イベント、地域社会での英語を使ったイベントなど、実践的な英語使用の場を積極的に子どもたちに提供することも有効です。また、英会話カフェや英語ボランティア活動への参加を通じて、楽しみながら実践的なスキルを身につけることも重要です。

英語スピーキング能力の向上は、グローバル化が進む世界で活躍するために不可欠なスキルであり、これを実現するためには教育関係者、保護者、子どもたち自身が、一緒に力を合わせて取り組む必要があります。お互いに協力し合い、具体的な行動を起こすことで、日本の子どもたちが世界で活躍できる真のグローバル人材へと成長することができるのです。

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