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英語教育

生成AI時代における英語教育の必要性

執筆者 :応用言語学者 学習院女子大学教授 萓 忠義

目次

 

1. はじめに

生成AI技術の飛躍的な進歩は、2022年11月末に公開されたChatGPTの登場以来、私たちの生活や仕事、学び方に革命的な変化をもたらしています。日常的な作業から情報検索、教育、ビジネス、創造的活動に至るまで、生成AIの影響は広範に渡ります。特に言語翻訳の領域では、生成AIがもたらす影響は計り知れず、世界中の人々が瞬時に母語で情報を共有でき、異文化間の言語の障壁が低くなったことも事実です。このような背景の中、伝統的な英語教育の価値に疑問を投げかける声が高まっていると言われますが、皆さんはどのように思われるでしょうか。

「もう英語なんていらない」という考えをする人もいるとは思いますが、実は、この革新的な技術が身近な存在になっている今日でも、子どもたちに英語教育を行う必要性があることに変わりはありません。本稿では、この新技術が秘める可能性を踏まえつつ、生成AIの時代においても、子どもたちが英語を学ぶべき理由を示し、英語教育が未来の世代にとって不可欠なものであることを解説していきます。

 

2. 生成AI翻訳には限界がある(第1の理由)

生成AI翻訳は、従来の翻訳ツールと比較して類を見ないほどの精度と自然さで文章を訳してくれます。日常会話からビジネス文書、文学作品に至るまで、さまざまなテキストの翻訳が瞬時に行われ、異なった言語による文章理解を容易にしてくれます。しかしながら、その翻訳の質は現状においては完璧なものではなく、未だ解決すべき課題も残っています。そして、生成AI翻訳には「限界点」が存在するため、子どもたちへの英語教育が依然として必要だと言えるのです。

 

まず、生成AI翻訳の問題点として挙げられるのが、文脈把握の問題です。人間が創作した内容の文脈を正確に理解することは、生成AIにとって依然として不得意な領域となっています。言語は単に単語の羅列ではなく、同じ単語やフレーズであっても、話される状況や背景によって、含意する内容が大きく変わる場合があります。AI翻訳はこうした文脈を完全には捉えきれず、誤解を招く翻訳結果を生み出すことがあります。

 

加えて、言語にはその言語固有の文化が息づいていて、生成AIがこれらの微妙なニュアンスを詳細に理解し、その意図を正確に伝えるにはまだ問題があると言えます。人間が創り出した文章には、その特定の言語でしか表せない概念や感情が存在し、他言語に翻訳する際に、元の言語の深みや豊かさを失ってしまうこともあるのです。

 

さらに、生成AIに依存することで生じるリスクも考慮する必要があります。万が一、技術的な障害が生じたり、通信が寸断されたりした場合、生成AI翻訳サイトへのアクセスが制限される可能性があります。また、辺境の地などでは、デジタル技術自体を使用する環境にない場合もあるのです。生成AI翻訳の技術は常に保証されるものではなく、時には人間の持つ言語能力が必要になる状況も多くあると言えます。

 

これらの生成AI翻訳の限界を考えると、英語学習の必要性はより一層際立ってきます。子どもたちが将来直面するさまざまな状況では、異なる文化背景を持つ人々との交流を行い、単なる表面的なやり取りを超えた交流をしなくてはなりません。また、人と人との間に築かれる深い絆を大切にし、多文化を理解する力を身につけることも重要になります。これらは、生成AIをもっても難しいことであり、長い英語学習の末にようやく得られるスキルだと言えるでしょう。英語学習を通じてのみ、子どもたちはグローバルな視野を持ち、多様な文化背景を持つ人々と深く交流する能力を養うことができるのです。

3. 英語学習を通して知的発達を促進できる(第2の理由)

生成AIが存在する現在でも英語学習が必要と言えるもう一つの理由として、「知的発達を促進できる」ことが挙げられます。言語学習、特に英語のような国際言語を学ぶことにより、子どもたちは、批判的思考能力、問題解決能力、創造性、思考の多様性などを高めることが可能となります。生成AIの時代であっても、これらの能力は子どもたちが将来直面する課題に対処するために不可欠なスキルとなるのです。

 

幼少期から英語を学ぶ過程においては、さまざまなテキストや文脈を理解し、その中に含まれる情報や意見を分析し評価することが求められます。このような学習活動は、批判的思考能力を養う絶好の機会となります。たとえば、英語の授業や課題では、異なる文化や視点からの意見を比較検討し、相反する意見にも耳を傾け、自らの立場を論理的に構築することが必要になります。この学術的な思考を養うプロセスの中で、学習者は情報の真偽を見極め、複雑な問題に対する解決策を見出す能力を身につけることができます。単なる表面的な学習に留まらず、英語学習を通じて認知的にも大きく成長することができるのです。

 

また、母語以外の第二言語を学ぶことは、脳の機能を活性化させ、創造的思考を刺激することもできると言われています。研究によると、複数の言語を話す人(マルチリンガル)は話さない人(モノリンガル)に比べて、創造的な問題解決に優れていることが示されています。異なる言語には独自の表現方法や思考の枠組みがそれぞれ存在し、これを学ぶことで、子どもたちの思考は柔軟になり、新しいアイデアを生み出すことのできる人材になれるのです。英語学習を通じて世界中の多用な文化やアイデアに触れる機会が増えるため、子どもたちの創造性が向上するのです。

 

さらに、英語を通じて得られる広範な知識や情報は、子どもの知的好奇心を刺激し、学習意欲を高めるのです。特に、英語が重要となる科学、技術、経済、ビジネス、医療などの分野において、最新の研究やトレンドにアクセスできることは、大きな動機づけとなります。また、英語でのスキルを高めることで、国際的な会合やプロジェクトに参加する機会が増え、これらの経験がさらなる知的発達を促進するのです。そして、英語学習はグローバルな視野を得る上でも重要な役割を果たすと言えます。世界的な視点から物事を捉え、多様な価値観や文化を理解することは、今日の国際社会において求められる基本的な知的能力です。英語を学ぶことで、世界のさまざまな地域や人々と直接交流する機会が増え、相互理解や協力の精神を育むことができるのです。

 

このように、英語学習は子どもたちの知的発達を促進し、将来的に社会で活躍するために必要な多くのスキルを身につける手助けをしてくれるのです。生成AIの時代にあっても、英語学習と言語習得の過程で得られるこれらの能力は、AIには真似ることができない、人間特有の貴重な資産となります。

 

4. まとめ

このコラムを通じて、生成AIの進化がもたらす便利さとその限界、そして、生成AI時代であっても、子どもたちの英語学習がなぜ重要なのかについて考察してきました。生成AI翻訳の質は飛躍的に向上したものの、依然として問題は存在し、英語学習を放棄して、すべてを生成AIのみに頼るという考えは時期尚早であると言えます。また、真の文化的理解や人間関係の構築、批判的思考や創造性のような知的発達を促進するためには、英語学習は大変有益であるということも解説しました。生成AIの台頭後も、英語はグローバルなコミュニケーションの鍵であり、多様な文化やアイデアにアクセスする手段として、子どもたちに無限の可能性を提供してくれるのです。

 

子どもたちに英語教育を施すことは、単に言語能力を高めるだけでなく、将来に対する知的な投資とも言えます。生成AIの時代にあっても、英語学習から得られる価値は変わらないのです。これからも、英語学習の真価を理解し、子どもたちが世界を広く深く見渡せるよう、私たち大人が積極的に支援を行い、英語教育の機会を提供することが重要と言えるでしょう。

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