「家庭でできる英語環境の作り方 」応用言語学博士　萓 忠義

執筆者　：応用言語学者　学習院女子大学教授　萓 忠義

目次

1. はじめに

私たちは、現在、英語に囲まれた日常生活を送っています。保護者の方々が幼少期を過ごされた20～30年前の日本とは違い、今の子どもたちには英語がより身近な存在になっています。また、グローバル化が進む現代社会では、英語はもはや遠い異国の言語ではなく、子どもたちの教育において重要な位置を占めています。このように英語の重要性が増した今、子どもたちに家庭での英語学習環境を整えることは、言語学習の効果を最大化し、将来における無限の可能性を開く鍵となります。本稿では、家庭で英語環境を整えることのメリットを掘り下げ、親御さんたちが子どもたちに質の高い英語教育を家庭で提供するための実践的なアプローチを紹介します。

2. 家庭での英語環境の重要性

家庭での英語環境作りは、早期英語教育において非常に重要だと言えます。研究によると、幼少期から英語に日常的に触れることは、効果的な言語習得に不可欠であることが示されています。日常生活の中で自然に言語に触れることで、無理なく言語能力を習得できるのです。学校教育や塾などだけで英語教育を行うのもよいのですが、家庭でも英語に触れることで、子どもたちはより落ち着いた環境で学ぶことができ、結果的に英語の習得速度が増し、学習到達度がより高くなるのです。

3. 家庭での日常英会話（実践的アプローチ １）

英語を自然に身につけるための効果的な方法として、家庭で英語を実際に使用することをお勧めします。まずは、「日常英会話」から始め、毎日の挨拶、食事、着替え、お片付けなど、日々の簡単な活動を英語を使用して行うことで、子どもたちは自然と英語を耳にし、言語を使う機会を増やすことができます。また、週に一回程度、「英語の日」を設定し、その日は家族全員で英語のみを使用するというルールを作ることで、英語に対する意識を高めることもできます。さらに、家の中で「英語エリア」を設けるのも一つの方法です。このエリアでは、英語の本、ゲーム、ビデオ、パソコンなどを置き、英語のみを使うことをルールとします。そうすることで、子どもたちは遊びを通じて楽しく、自然に英語を学ぶことができるのです。

家庭で日常英会話を行う場合、使用する表現は簡単なフレーズで十分です。親御さんが英語に自信がない場合でも、子ども向けの英会話書籍やオンラインリソースを活用して、一緒に学ぶことが可能です。Google などで、「家庭」「英会話」「子ども」などをキーワードとして検索すると、さまざまな書籍や教材などを調べることができます。ぜひ一度試してみてください。

一緒に英語を学ぶというプロセスを通して、「子どもに学ばせる」というスタンスではなく、「子どもと一緒に学ぶ」ということが可能となり、親子ともに英語能力向上を目指すことができます。また、親御さんと一緒に勉強することで、子どもたちの英語学習へのモチベーションを高める効果も期待できます。

4. 英語の読み聞かせ（実践的アプローチ ２）

英語の読み聞かせは、家庭で英語に親しむ上で最も魅力的な方法です。物語の読み聞かせを行うことで、語彙力を増やし、英語のリズムや響き、イントネーションなどに慣れることができます。子どもの年齢や興味に合わせて、好きなジャンルの本を選び、定期的に読み聞かせの時間を設けることが大切です。まずは、簡単な絵本から始め、徐々に書籍のレベルを上げて、科学や歴史などの分野を扱った教育的な書籍を取り入れることで、子どもたちの知的好奇心を刺激し、英語での知識の幅を広げることができます。

もし、親御さんが英語を読むということに抵抗がある場合や、仕事が忙しく読み聞かせに十分な時間が取れない場合には、オーディオブックの活用も効果的です。オーディオブックは本の内容が音声化されたものですので、子どもたちだけでも絵本や書籍を楽しむことができます。耳で英語を聴き取ることで、聴く力の向上にも繋がります。特に、就寝前のリラックスした時間にオーディオブックを聴かせると、物語の内容に集中しやすく、英語での自然な理解を促進することができます。

読み聞かせを行った後には、できれば、「物語について話し合う時間」を設けることをお勧めします。まずは、本の中で新しく学んだ単語やフレーズを確認するところから始め、本の内容に関する疑問や質問などを子どもたちに問いかけてみましょう。そして、物語に関する感想を英語で訊いてみることも有効です。この活動は、専門的には Post-Reading Activities と言い、学習内容の定着を高める効果があります。また、心理的観点からも、親子のコミュニケーションを促進することができ、親子の絆を深める貴重な時間にもなるのです。英語に対する興味と親子間のつながりを強化できるので、是非行ってみてください。

5. ICTを活用したデジタル英語学習（実践的アプローチ ３）

デジタル技術の進化により、ICT（情報通信技術）を活用した英語学習という選択肢が大幅に増えています。子どもたちは、インタラクティブな学習アプリやオンライン英会話を通じて、英語をゲーム感覚で学ぶことができ、楽しみながら語彙や文法を習得し、実際に使える会話練習を行うこともできるのです。

インタラクティブな学習アプリでは、アニメーション、ゲーム、クイズなどのさまざまな形式があり、子どもたちは「楽しい体験」を通じて、自然に英語を学ぶことができます。たとえば、単語ゲームでは遊びながら新しい語彙を学ぶことができ、発音アプリでは英語の音声を模倣しながら正しい発音を身につけることができます。また、ストーリー性があるアプリでは、リスニング能力の向上とともに、英語の自然な使用法についても学習できます。通常、アプリにはさまざまなレベルがあり、子どもたちは自分に合ったペースで学べるように設計されています。フィードバック機能を備えているアプリも多く、子どもたちは自分の進捗状況や改善点を即座に確認できます。親御さんが子どもの学習進捗状況を確認することもできます。

また、オンライン英会話では、ネイティブまたはバイリンガルスピーカーと直接オンライン上で会話のやり取りをすることができ、リスニングとスピーキング能力を同時に鍛えることが可能です。時間や場所を選ばず、インターネット環境さえあれば、空き時間を利用して子どもたちのペースで学べるため、忙しい家庭にとっても非常に便利な学習方法です。英会話クラスと言っても以前のように高額ではなく、1レッスンあたり数百円から数千円程度で受講できるサービスが多いので、ぜひ活用してみてください。